2-2 崖と湧水 -国分寺崖線と野川周辺-
「中央線国分寺駅と小金井駅の中間、線路から平坦な畠中の道を二丁南へ行くと、道は
突然下りとなる。「野川」と呼ばれる一つの小川の流域がそこに開けているが、流れの割
に斜面の高いのは、古代多摩川が次第に西南に移って行った跡で、斜面はその途中作っ
た最も古い段丘の一つだからである。」これは大岡昇平の『武蔵野夫人』の一節である。
武蔵野台地は、古多摩川により堆積された武蔵野礫層を帯水層として、この礫層が地表
と接するところ(台地の縁や台地上の窪地)に地下水の湧き出し口が見られる。これら湧水
地点は標高50 mより少し低いところに位置するもの(井の頭池、善福寺池など)と、標高
70 mより少し低いところに位置するもの(真姿の池、矢川源泉など)の2つのグループに
分けられる。これら湧水地点は古多摩川が現在の青梅付近を要として扇状地(現在の武蔵
野台地)を形成していた頃の扇端部からの湧水の名残で、井の頭池のようなかつて大量
の湧水(推定3万トン/日)があった地点は、古多摩川の旧河道であったという説もあ
る。その後火山灰が降り厚く堆積したが、湧水が流れとなり川となっていた部分の火山
灰は堆積することなく水で流され現在の谷地形が形成された。しかし、都市化に伴い地
表がアスファルトやコンクリートに覆われ雨水の地下への浸透が少なくなり、多くの湧
水が枯渇した。現在でも豊富な湧水が残っているのは、集水域の広い武蔵野段丘を囲む
崖線に多い。とくに武蔵野段丘南縁部と立川段丘の境にある国分寺崖線は、古くから
「ハケ」と呼ばれ、豊富な清水の湧き出るところである。この崖線に沿って湧水を集めて流
れているのが野川である(図7参照)。しかし、これら湧水も昔と比べ湧水量は減っている。
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①日立中央研究所(源泉)②真姿の池③国分寺④東京経済大学⑤貫井神社⑥野川公園
図7 国分寺付近の国分寺崖線と野川
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