2.台地の渓谷と崖 2-1 等々力 とどろき 渓谷 〈等々力という地名〉 等々力渓谷は、世田谷区に東京 23 区内唯一の渓谷として整備されている。ところで 「等々力 とどろき 」という地名はなぜついたのであろうか。地名の由来にはいくつか説があるよう だが、渓谷内の不動の滝の音が響きわたり「轟いた」ところからついたとの言い伝えと、 戦国時代に吉良氏の家臣が戦いの功績として北条氏よりこの土地をもらって築いた城 「兎々呂城 」(城は「き」と読む)を築いたなどがあるが、前者の説がもっとも有力とさ れている。ただ、なぜ「等々力」という字に当てたかははっきりわからない。 4) 〈等々力渓谷の地質〉 等々力渓谷は東京 23 区内唯 一の渓谷であるばかりでなく、 都内では数少ない東京の地下 の地質を見ることのできる場 所である。等々力渓谷は、武 蔵野台地南端部に位置してお り、台地面の崖端を浸食して 形成された開析谷である。この渓谷を流れる谷沢川の両岸の露頭には武蔵野台地に分布 している地層を見ることができる。その地層は、時代の古い順に上総層群(泥岩)、東京 層(シルト岩)、武蔵野礫層、中台礫層、関東ローム層である。等々力渓谷の地質概念図 を図5に示した。 関東ローム層の中には東京軽石層(約6万年前の箱根火山の新期降下軽石層:略称TP が見られる。この東京軽石層は武蔵野面や中台面にも見られ、軽石層を含むローム層が 階段状の地形を覆うように堆積したことがわかる。等々力渓谷では中台面には武蔵野礫 層や、その下位の粘土が見られない。このことはかつて(約5万年前)、古い多摩川が中 台面を流れて浸食したもので、武蔵野面と中台面が階段状になっている原因である。武 蔵野礫層は褐色で、直径数cm の丸い礫を多く含み、礫種は砂岩やチャートである。この 武蔵野礫層と下位の東京層(粘土層)の境界からは地下水が流れ出ている(不動の滝)。 渓谷上流部には上総層群の青灰色のシルト岩層が分布し、東京層(粘土層)に不整合に 覆われている(写真1)。 渓谷をつくった谷沢川は、かつては呑川 のみがわ 支流の九 品仏川 ほんぶつがわ で、谷沢川の上流部は現在の 5 図5 等々力渓谷の地質概念図 5)