流路ではなかった。谷沢川は多摩川
から北に向かって発達した支流で、
谷頭を浸食していくうちに等々力付
近で九品仏川とぶつかった。そこで
河川の争奪が起こり、争奪に勝った
谷沢川は水量を増し、盛んな下方浸
食により現在の等々力渓谷を形成し
ている。図6で、谷沢川と九品仏川
の沖積面が一連の谷底であること、
谷沢川が九品仏川上流を争奪したこ
とがよくわかる。
〈等々力渓谷の自然(植生、鳥類、昆虫)〉
7)
等々力渓谷は、その崖面の勾配が急峻で不安定な状態にあること等に起因して都市的
な開発から免れてきた渓谷である。さらに、人為的影響のおよびにくいことによって比
較的高い自然性が保たれ、都市内に残る自然としては比較的多様性に富んだ環境である。
渓谷内には、渓谷の中を流れる谷沢川の両岸に落葉広葉樹林、スギ・サワラ植林、セ
キショウ草地、草地、アズマネザサ草地、マント群落、植栽地が分布している。落葉広
葉樹は、ケヤキ、ムクノキ、ミズキ、イヌシデ、コナラが最も広く分布している。等々
力不動尊の石段付近を境に、北側のゴルフ橋側では、ケヤキ、ムクノキ、ミズキ等が主
体をなし、南側の矢川橋側では、コナラ、イヌシデが主体をなし極めて自然に近い。
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図6 九品仏川と谷沢川の河川の争奪
6)
写真1 不動の滝