2.地質の概要
我々の生活の基盤をなしている地表付近の地質は現在の地形と密接な関係がある。大
江戸線が走る東京 23 区部には山の手台地と下町低地が分布しており,そこにはそれぞ
れ違った地層が堆積している。山の手台地では関東ローム層とその下位の段丘礫層,下
町低地では軟弱な粘性土層で代表される沖積層が堆積している。一方,さらに深い箇所
ではほぼ同じ種類の地層が確認できる。現在の地表付近の地質が堆積する前に,東京全
域に分布していた地層である。
このような地層の年代の順序を表に表したのが表1に示す層序表と呼ばれるものであ
り,地質断面図に用いる地質のリストである。表1の層序表は東京都(区部)の深部地
盤の集大成である「東京都(区部)大深度地下地盤図-東京都地質図集6-」(東京都
土木研究所,1996 )からそのまま引用したものである。これ以前の地盤図で用いられた
地層のほか横浜・川崎市付近,房総半島の地層が時代毎に対比できるようにまとめられ
ている。この表から判るように,同じ年代に堆積した地層でも地域が異なることにより,
地層名も変化し,さらには同じ地域でも解釈の違いにより層序表は異なる。このように,
層序表は地域の特徴を反映していると同時に,あらたな研究成果に基づき更新される。
特に,最近の層序表(表中の「本地盤図」)は深い地層について以前の層序表(東京都
総合地盤図Ⅰ,1977 )と比較して大幅に更新された。これは,約 650 点にも及ぶ電気検
層図を伴う深井戸柱状図と 50m を超える約 4,000 本のボーリング柱状図を解析した結果
のほかに,地層の古地磁気記録による対比をはじめとする多くの知見を集約した成果で
ある。
従って,最新の層序表に基づいて作成された地質断面図は,以前の解釈に基づくもの
と当然異なってしまう。実際,大江戸線の地質調査に基づく地質断面図は,調査が実施
された 1987 年頃の層序表(東京都総合地盤図Ⅰ)に基づいて作成されているため,現
在の層序表に基づいて作成した場合,異なったものになってしまう。最も大きな差異は
表1から判るように,現在では下町低地において上総層群とは江戸川層,舎人層,東久
留米層(代々木砂層)および北多摩層でなされていると解釈されているが,以前の層序
表では江戸川層は東京層群に属し,その下位には上総層群が分布していると考えられて
いた点である。そのため,泥岩(俗に土丹)だけが上総層群と呼ばれていた。
今回掲載した大江戸線沿いの地質断面図は建設当初に作成されたものを尊重し作成し
ているが,以上のような事情から層序について若干の加筆を加えさせて頂いた。大江戸
線は東京都の 23 区部を環状および放射状に通る地下鉄であり,建設にあたっては地質
を無視できない構造物である。特に,後述する飯田橋駅舎の建設においては,上総層群
上部の地層の傾斜が工事時の最大の課題となった。この地質断面図には大江戸線の位置
を赤線で表しているので,どのような地層を大江戸線が通っているのか想像しながら,
見て頂ければ幸いである。
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