4-2.地下鉄建設における地質調査の役割と重要性
(1 )東京の地下構造と地下鉄工事のかかわり
地下鉄「大江戸線」建設工事で対象となった地層は、「2.地形・地質概要」で取り
上げた様に、東京層・上総層群と呼ばれる洪積層とそれより新しい地層である。この洪
積層より新しい地層は場所により種類が異なり、東京の台地部では関東ローム層と呼ば
れる火山灰層が堆積しており、低地部では有楽町層および七号地層と呼ばれる比較的新
しい時代に堆積した軟弱な粘土層と砂層が地表面を覆っている。
これらの地層は未固結な状態で大変厚く堆積している。東京の表層地形は緩やかで急
峻なところが少ないものの、地下における地層は変化に富んでおり、連続性に乏しく、
地形が比較的単純な割には案外複雑な地下構造を呈している。
地下鉄工事で難工事として記録されているケースでは、軟弱な有楽町層粘土層中にお
ける他線地下鉄および駅舎や電力等ライフラインとの近接工事に対する損傷防護、豊富
な地下水を帯水している東京礫層や上総層群の砂層からの突発湧水等いずれも地層特有
の問題として生じている。
地下工事の難易の度合いは、地層構造に大きく支配されることが一般的である。特に
地下鉄のように連続した地下構造物にとっては、建設工事における事前の段階から工事
段階まで地質調査という専門技術を駆使して、地層の変化と地下水の働きがつくり出す
複雑な状況を把握しながら未然に事故を防ぎ、軽減していくことが極めて重要である。
このようなことが本誌を読まれてご理解いただければ幸いである。
(2 )地下鉄建設で得た地盤情報の活用への期待
東京の地下地質については、長年にわたり研究がつづけられている。その背景には地
質調査ボーリング資料の蓄積が重要である。地表下数 10m までについては詳細に解明が
なされているが、これを超える深度が対象となると不明な点も多いようである。
地質断面図のところで示された地層は極めて多くの箇所に及ぶ地質調査ボーリングが
行われた成果である。20 世紀最後のビックプロジェクトであった「大江戸線」建設は、
都市地盤における地質学の発展に大きく寄与した。これらのデータに基づき地下構造を
詳細に分析することは、東京の特に深部の地下構造解明に意味のあることと期待したい。
(3 )地下鉄の建設工法と地盤
地下鉄の建設工事は様々な地形・地質を背景にして、沿線の環境や建物・地下構造物
そして住民への影響を最小にしながらトンネルの深さ、駅舎等を最適な構造として設
計・施工をしなければならない。これらの条件を満たしながら進められた工法の代表は、
「開削工法(駅舎)・シールド工法(トンネル部)・アンダーピンニング工法(近接
部)・ケーソン工法(河川下越え)」であった。
開削工法では、山留め壁を極力変形させないことや掘削底面の地盤破壊を防止、さら
に周辺の地下水環境に対する障害を出来る限り少なくすること等が求められる。
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