13 3.東京湾の生態系 3-1 東京湾の生態系の変遷 東京湾とは、観音崎、富津岬を結ぶ内側の東京湾内湾 と、その外側の剣崎、州崎を結ぶ東京湾外湾とあわせた 範囲をいう(図10参照)。東京湾内湾には、多摩川、荒川、 江戸川に代表される河川からの淡水の流入と、外海から の黒潮が混じりあうことから、非常に豊かな汽水域が形 成されている。さらに、河川からの堆積物により干潟が 形成され、かつてはこの干潟が多くの魚貝類の生息に貢 献してきた(図11参照)。東京湾内湾の内、東京都沿岸 部(一つの考えとして多摩川と江戸川に挟まれた範囲の 海域)を「江戸前の海」と呼び、今では想像もできない ほど魚貝類が豊かな海があり、これが江戸時代からの食 文化に大きな影響を与えてきた。しかし、高度成長に伴 う埋立てによる干潟の消滅と河川からの汚染水の流入 により、昭和30年代後 半には魚貝類にとって危 機的な状況に陥った。併 せて、昭和37年の漁業権 放棄に伴い漁獲量も激減 した。しかし、その後下 水道の発達や河川への排 水の規制強化等により、 内湾での漁獲量は徐々に 回復してきている。明治 32年以前は記録がない ために漁獲量は不明であるが、江戸前の海がいかに豊かであったかと言うことは、江戸 時代の文献等から容易に推測できる。東京湾内湾漁業では、アジ、カレイ、ハゼ、スズ キ、クロダイ、キス、アナゴ、うなぎなどの魚類をはじめ、ハマグリ、アサリの貝類や 浅草海苔などを豊富に捕ることができ、昭和30年代までの単位面積当たりの漁獲高で は日本一であった。図12に明治38年~昭和56年までの東京湾内湾漁業の漁獲高の変遷 を示す。昭和初期までは藻類が多く、以降は貝類の漁獲高が多い。漁業権放棄(昭和37年) 前の昭和35年が最大漁獲高を示し、おおよそ8万tとなっている(写真1、昭和30年代 の出漁の様子)。図13に明治30年代の内湾漁場図を示す。 図10 東京湾の定義 7) 図11 東京湾の河口部の地形形成概念図 8) 「東京湾の生物誌」:沼田真、風呂田利夫(築地書館)、から引用)