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前述の詩は、ナウマン象やフォッサマグナなどの研究で有名なハインリッヒ・エドム
ント・ナウマン博士が高知県佐川を訪れた際、詠んだ詩である。考古学的な意味合いを
持つ詩だが、地質学的に見ても、味わい深い詩である。
多摩川の川原に見られる小石も、大昔に堆積・固結した岩石が地表に現れ、多摩川に
よって運ばれてきたものである。この小石を構成する岩石が、上流側の何処の地域に分
布するかも解っている。このことから、現在の多摩川の川原にある小石が何処で生まれ、
かつての多摩川が何処を流れて、小石を運んでいたかを推測することが可能である。
図20に現在の多摩川の流路とその周辺の地質分布を示す。図20によれば、現在の多
摩川上流の南西側には、白亜紀~古第三紀(2300万年~1億3500万年前)の付加帯
*
であ
る四万十帯(砂岩・泥岩・チャート、石灰岩)が分布し、北側にはジュラ紀(1億3500万
年~2億年前)の付加帯である秩父帯(砂岩・泥岩・チャート、石灰岩)が分布する。
このように、現在の多摩川の川原に見られる小石のほとんどは、上流地域から河川に
よって運搬されてきたものと考えられる。しかし、少量ながら見られる緑色の鮮やかな
緑色岩は、現在の多摩川上流には分布していない。この岩石は丹沢山地に分布が見られ
る。また、丹沢山地を源とする相模川は、約50万年前頃には多摩丘陵北西部から国分
寺付近を通り海に注いでいたと言われている。もしかすると、この緑色岩は古相模川に
よって運ばれてきたものかもしれない。
変成岩
秩父帯
(砂岩・泥岩・チャート)
四万十帯
(砂岩・泥岩・チャート)
花崗岩
火山岩
相模湾
多摩川
火山砕屑岩・火山岩
東京湾
秩父帯
(砂岩・泥岩・チャート)
四万十帯
(砂岩・泥岩・チャート)
火山砕屑岩・火山岩
富士山
火山岩
富士山
図20 多摩川上流地域の広域地質図
10)
このように流れを変えながら東京の地盤を作ってきた多摩川は、人々の生活とも重要
な関係を持っていた。次章では多摩川と人々の繋がりについて触れてみる。
*付加帯:プレート上の堆積物が日本海溝で沈み込む際、はぎ取られ、陸側に押しつけられ積み重なった地層。