22 前述の詩は、ナウマン象やフォッサマグナなどの研究で有名なハインリッヒ・エドム ント・ナウマン博士が高知県佐川を訪れた際、詠んだ詩である。考古学的な意味合いを 持つ詩だが、地質学的に見ても、味わい深い詩である。 多摩川の川原に見られる小石も、大昔に堆積・固結した岩石が地表に現れ、多摩川に よって運ばれてきたものである。この小石を構成する岩石が、上流側の何処の地域に分 布するかも解っている。このことから、現在の多摩川の川原にある小石が何処で生まれ、 かつての多摩川が何処を流れて、小石を運んでいたかを推測することが可能である。 図20に現在の多摩川の流路とその周辺の地質分布を示す。図20によれば、現在の多 摩川上流の南西側には、白亜紀~古第三紀(2300万年~1億3500万年前)の付加帯 であ る四万十帯(砂岩・泥岩・チャート、石灰岩)が分布し、北側にはジュラ紀(1億3500万 年~2億年前)の付加帯である秩父帯(砂岩・泥岩・チャート、石灰岩)が分布する。 このように、現在の多摩川の川原に見られる小石のほとんどは、上流地域から河川に よって運搬されてきたものと考えられる。しかし、少量ながら見られる緑色の鮮やかな 緑色岩は、現在の多摩川上流には分布していない。この岩石は丹沢山地に分布が見られ る。また、丹沢山地を源とする相模川は、約50万年前頃には多摩丘陵北西部から国分 寺付近を通り海に注いでいたと言われている。もしかすると、この緑色岩は古相模川に よって運ばれてきたものかもしれない。 変成岩 秩父帯 (砂岩・泥岩・チャート) 四万十帯 (砂岩・泥岩・チャート) 花崗岩 火山岩 相模湾 多摩川 火山砕屑岩・火山岩 東京湾 秩父帯 (砂岩・泥岩・チャート) 四万十帯 (砂岩・泥岩・チャート) 火山砕屑岩・火山岩 富士山 火山岩 富士山 図20 多摩川上流地域の広域地質図 10) このように流れを変えながら東京の地盤を作ってきた多摩川は、人々の生活とも重要 な関係を持っていた。次章では多摩川と人々の繋がりについて触れてみる。 *付加帯:プレート上の堆積物が日本海溝で沈み込む際、はぎ取られ、陸側に押しつけられ積み重なった地層。