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(2)谷の例
谷の地名として有名なものに市谷がある。ここは四谷の第1の谷を示し、2と3は不
明であるが、「いちのたに」から市谷といった説もある。世田谷は瀬田の谷地の意味で、
世田谷戸の略とされている。日比谷、谷底の町 渋谷、入谷、千駄ヶ谷も谷を表わす地
名として有名である。
また、消えかけている谷地名には山谷がある。山谷は三谷とも書かれた地名で、浅草、
杉並、目黒、渋谷など各地に存在した地名であるが、地形由来の地名であるかは不明で
ある。このほか、地形そのものがそのまま地名になったものも多くある。
・かつて原野であった 原町(渋谷、新宿、文京、目黒)、西原、広尾、上原(渋谷)、
砂原(葛飾)、上ノ原(中野)、西ヶ原(北区)、大原(世田谷)、谷原(練馬)、関原(足
立)
・湧水や井戸関係 清水谷町(文京)、清水(杉並、墨田、目黒、板橋)、和泉(杉並)、
泉町(板橋)、大泉(練馬)、上平井(葛飾)、中井(新宿)、貫井(練馬)、新井(中野)、
大井・鮫洲(品川)
・起伏の多い沢地形 北沢、奥沢、深沢(世田谷)
・池にちなむもの 池上(大田)、池尻(世田谷)、池之端(台東)
・島状 小島町(台東・江戸川)、長島町(江戸川)大島、石島(江東)、島根(足立)
・河川の合流 落合(新宿)、川口(中央)、渓流が轟くので等々力(世田谷)
以上、地形由来の地名を抜き出し、位置する区名と合わせて紹介した。
一方、東京に限らず、防災に絡ませた不自然地形に対する呼称として、図6のような
地すべり地形の中の慣例的な読み方を紹介する。
都内においてはあまり縁のない言葉かもしれないが、この図は国土交通省近畿地方整
備局で紹介している地すべり地形に対しての読みの例である。読みが優先され、後から
漢字があてがわれることが多く、先の地形に由来した地名語句で紹介したような当て字
も興味深い。余談になるが、本技術ノ
ートの執筆担当者の苗字の大半は、紹
介した地形由来の地名と合致している
ようである。×山、×原、×井、×場、
×地といったように、~の山、~の原
野、~の馬場?~の井戸?などと解さ
れ、苗字と地名との関係もまた面白い。
2章からは東京の地名に対して、さら
に様々な切り口から紹介する。
図6 地すべり地形の読みの一例
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