28 5.おわりに この度ご紹介しました荒川は、一級水系である荒川水系の本流で一級河川に指定され ています。甲武信ヶ岳にその源流を発し、山地を流れ下り、関東平野を潤しながら東京 湾に注ぐ河川で、上・中・下流域で様々な特徴と表情を見せます。 上流域は、水源としての役割に加え、長瀞の岩畳などダイナミックな景観から観光地 としても高い人気を集めています。その後、河川勾配は秩父盆地から次第に緩勾配とな り、中流域の荒川低地では、1/1,000 ~ 1/5,000 と著しく緩勾配となります。その中流 域は、約2.5kmにも及ぶ日本一の川幅を誇り、全国でも珍しい横堤が築かれるなど特徴 ある田園風景が広がっています。下流域は、秋ケ瀬取水堰から河口までの区間が「感潮 区間」となっていて、潮汐の影響を受ける区間が35kmにも及びます。そして、これま で埼玉県を流れていた流路も、下流域では東京都にまたがるようになり、岩淵水門から 下流の荒川放水路沿川には多くの人々が住み、様々な土地利用が行われ、都市的な景観 となっています。 このように自然豊かで人々の生活と密接な関係にある河川ですが、その河川の持つ意 味とは何でしょうか? 調べてみると「陸上の水が集って流れる細長い凹地(河道)を、そこを流れる水ととも に河川という」とあります。皆さんがイメージする河川とはこのようなものだと思います。 これを物理的概念としてとらえると「自然水流と自然水流の流水の円滑な疎通を確保 するために設けられる人工水流である」とされています。本来的には、自然発生的で特 定の目的を有しないものですが、その社会経済上の機能に着目すれば、特定の目的に限 られず広く一般公共の用に供される水流、すなわち公共の水流であるといえます。日本 の土地は、ほとんどどこかの河川の流域に属しているため、国土保全上も洪水、高潮等 の災害が発生した場合に想定される人命、財産等の被害が大きく、治水対策が非常に重 要になってきます。また、経済面からも、上水道、工業用水道、灌漑、発電など河川の 利用は多岐に渡り非常に重要なものとなっています。 荒川の歴史を振り返ってみても、かつては文字通り「荒ぶる川」だった荒川、大洪水 を契機にその姿を大きく変えていきました。江戸時代初期には、河道そのものを付替え 工事により隅田川へ経る流路に変更し、更に、洪水の抜本的対策として、20年の歳月 を要し、昭和5年(1930)に荒川放水路を完成させました。そして、現在に至るまで、 都市の発展とともに変遷してきました。 時代とともに、私たちの暮らしと荒川の関わりは変化しましたが、荒川は今も、護岸 や堤防の整備を進めながら、私たちの暮らしが安全で、快適であるよう支え続けていま す。そして、これからも自然豊かなスペースとして、人々に親しまれる魅力ある河川と して、生活に深く関与し、社会の発展を支えてくれるでしょう。