- 1 - 1.はじめに 今回の技術ノート第52号は、「東京の地下水」を紹介します。技術ノートは、これまでに「東 京の川と水」(第5号)、「東京の温泉」(第13号)、「東京の地下」(第43号)などでスポッ ト的に地下水に触れてきました。地下水は、年間を通じて温度が一定で安価であるなどの 特徴から、高度経済成長期(1954年)以前までは良質で安価な水資源として幅広く利用さ れてきました。しかし、高度経済成長の過程で、地下水採取量が増大したため、地盤沈下 や塩水化といった地下水障害が発生し大きな社会問題となりました。このため、法律や条 例等による採取規制やダム等の整備による河川水への水源転換などの地下水保全対策が実 施された結果、近年では大きな地盤沈下は見られなくなりましたが、逆に地下水の回復に 伴う新たな問題(地下構造物への浮力、漏水)が発生しています。 そのため、本号では地下水をメインに特集し、地下水について様々な角度から分かり易 くご紹介します。 1-1 地下水って何 地下水とは、地表面より下にある水の総称であるが用語の定義に決まったものは無い と考えられます。しかし、公益社団法人日本地下水学会ホームページには、会員個人の 見解として「地下に賦存する水の総称」 1) とあります。地下水は、年間を通して水温が 一定で水質も良好であることから、人間社会の貴重な水資源として昔から利用されてき ました。地下には、砂礫などから成る水を通しやすい地層(透水層)、粘土などから成 る水を通しにくい地層(難透水層)及び岩盤があり、地域によってその分布が異なるこ とから、地下水が存在する状態も異なっています。地下水で満たされ飽和している透水 性の良い地層は、帯水層と呼ばれています。井戸水として広く利用されているのは、こ の帯水層中の地下水です。地表水は、重力により標高の高いところから低いところに向 かって流れますが、地下水は、重力だけでなく圧力によって流れる場合もあり、一般的 には高い方から低い方へ流れますが、場所によっては下から上への流れもあります。速 さは、地層内部の粒子の隙間を移動するため、その速さは河川などに比べて非常に遅い のが特徴で、河川水の流速が毎秒数cm ~数mであるのに対し、地下水の流れる速さは、 速くても毎秒0.01cm ~ 0.1 cm(1日に10m ~ 100m程度)、土壌や地質条件によっては 毎秒0.001 cm未満(1日に1m未満)の場合や1mを数十年、数百年、あるいは数千年 もかけて移動している地下水もあります。そのため、河川の最上流から海に到るまでは 長くても数日程度ですが、地下水の循環にかかる時間は循環の経路により大きく異な り、山に降った雨が地下水となってそのまま低地まで流れてくるのに数年から数十年、 上流域の山で深く潜った地下水が海岸付近まで達するには、50年以上の長い期間を要 する場合もあります。